●● 付言事項とは ●●
~家族への最後のラブレター~
付言事項とは、遺言書に法律上の効力を持つ「法定遺言事項」以外の内容で、法的な効力・拘束力はありませんが、相続人にあてた「感謝の気持ち」や「遺言内容の経緯」などの遺言者の思いを込めたメッセージです。
遺言で型通りの「財産の分け方」を記載しただけでは、「なぜ自分の相続分が少ないのか」等、法的には問題がなくても相続人の中に不満が出たりトラブルになることもあります。
このような場合、相続人の理解を得るために被相続人の考えや思いを「付言事項」として伝えることで、遺言が被相続人の最後の意思として尊重されやすくなり、その結果、相続トラブルや反発を回避できたり、円満な相続ができたりするケースが多くなります。また、万一の際の生前の意向を証拠化する手段としても、ぜひ書き加えられることをお勧めします。
また、面と向かって言葉にすると照れくさいような文章でも家族を失って悲しみにくれている家族には感動することも多いのです。
遺言で特定の相続人を排除するときは、その旨や事由について詳しく記載すべきですが、気にいらない家族への悪口の類は、トラブルの原因となりますので控えてください。何の法的効力もありません。
付言事項には、次のようなものが考えられます。
(必ず本文と整合性が取れるようにすること)
1)遺言を書いたわけ
2)遺産配分の理由
3)遺留分減殺請求権を行使しないでほしい理由
4)子の認知、相続人以外への遺贈の理由
5)相続人の廃除、遺産分割の禁止の理由
6)特別受益の持ち戻しの免除の理由
7)配偶者や家族に対する感謝
8)子どもの成長への喜び
9)家族の融和を祈念する言葉
10)葬儀・法要の方法
例えば、次のような遺言があったとします。
遺言書
第1条 遺言者は、次の不動産を長女A子(〇年〇月〇日生)に相続させる。
(不動産の表記・2500万円相当)
第2条 遺言者は、〇〇銀行預金に対する遺言者名義の下記貯金債権を長男B男(〇年〇月〇日生)に相続させる。
(預金債権の表記・1500万円相当)
(これでも、もちろん遺言としては十分ですが、下記の付言があったらどうでしょうか。印象が変わりませんか?)
第3条(付言)
A子、B男、今まで本当にありがとうね。2人のおかげで幸せな人生を送ることができました。
あなたたちに残すことができた財産は多くはありませんが、自分なりに考えて分けました。
この土地と建物は私の介護をしてくれたA子に相続させます。
A子は私の介護のため、家も購入せず、ずっと同居してくれました。
また、今後の法要も大変ですがお願いしたいと思います。
B男にはわずかばかりの銀行預金しか残っていませんがどうか事情を理解して、2人でもめることのないようにして欲しいです。
あなたたちが中学生の頃、元気だった母さんと家族4人で行った最後の湯布院家族旅行が一番の思い出です。
今後もきょうだい2人仲良く助け合って暮らしていくことを心から望んでいます。
孫たちを頑張って育ててください。
相続人は2人ですから法定相続分はそれぞれ2分の1ずつです。
ところが、A子さんとB男さんの実際の相続分はB男さんの方が少ないようです。
通常であれば、B男さんに不満が残りますが、何故このような財産の分け方をしたかという遺言者の意図を記した付言があることで、それも緩和できるのではないでしょうか。
多く相続するA子さんにとっても安心です。
このように相続というのは、お金に関わることですからどうしても家族関係にヒビが入る危険性が全く無いとは言えません。
それを、和らげるのがクッションの役割を果たす「付言」なわけです。法律的な内容のみの遺言は無機質に感じられて、残された側から見れば、少しさみしいものです。
相続人間で無用な遺恨を残さずに済むという点では「付言」は大きな意味があります。