●● 相続でよくある誤解 ●●
▼誤解① 遺産分割協議で相続放棄した・・・×
遺産分割協議書に印鑑を押し、相続放棄したと言っている人がいますが、これは「相続分」の放棄です。
相続分の放棄は0 の財産を「相続した」ことになり、相続人の地位は残ります。
借金や保証債務など、負の財産があれば法定相続分で相続してしまいますから、注意が必要です。
▼誤解② 夫の全財産は妻にいく・・・×
子どもがいないので夫の財産は全部妻のものになると思っている人がいます。
夫の兄弟姉妹(甥姪)も相続人になるなんて夢にも思っていません。
自筆証書遺言よりも、検認不要( 義兄弟と顔を合わせない)の公正証書遺言が有効です。
▼誤解③ 法定相続分で分けなくてはならない・・・×
相続が開始されたら、法定相続分割合を使う前にすべき事があります。
まず、亡くなった方の意思を確認するために遺言を探しましょう。
遺言を探したけれど見つからない場合には、残された家族によって亡くなった方の財産を分ける話し合いをします。この話し合いを「遺産分割協議」といいます。
当事者間の話し合いが調えば、法定相続分を無視した遺産分割協議を行っても、法律上は全く問題はありません。
この話し合いがうまくいかないときに始めて、裁判所によって調停や裁判をする際に使用される割合が法定相続分となります。
つまり、遺言をしっかり残しておくことによって、無用な争いを避けるだけでなく、亡くなった方の意思を伝える事が出来るようになります。
▼誤解④ 相続税は全員が払わなくてはならない・・・×
相続税申告が必要な人は全体の約8%程といわれています。
つまり、残りの約92%の人は相続税申告の対象になりません。
相続税には基礎控除という大きな控除があり、相続税がかかるかどうかは、まずこの基礎控除以上の財産があるかどうかを確認する必要があります。
相続税の基礎控除は、3000万円+法定相続人の人数×600万円までは非課税となります。
例えば夫が亡くなり、妻と子ども2人が相続人の家庭を想定すると、
3000万円+600万円×3人の合計4800万円までの正味の遺産であれば相続税が一切かかりませんし、相続税の申告も必要ないのです。
したがって、相続税対策はほとんどの場合必要がありません。
▼誤解⑤ 寄与分や特別受益を主張すればよい・・・×
法律は、法定相続人間の公平を図るために寄与分や特別受益の制度を定めています。
ところが、裁判所の統計をみると、これらを主張した例のうち、実際に認められたのは双方とも1割程度しかありません。
つまり、両方とも要件が厳しく立証も難しいのです。
特別受益や寄与分を主張したいと思う場合には、口で説明するだけではなく、裁判所も納得するような十分な証拠が必要となります。
▼誤解⑥ 相続放棄したら相続人が減り、簡素化できる・・・×
例えば、被相続人の子ども全員が相続放棄をした場合、相続人が配偶者だけになるのではなく、新たな相続人として、被相続人の両親や兄弟姉妹、甥姪まで関わってくる可能性があります。
したがって、むしろ相続手続きは複雑化することもあります。
もし、配偶者一人にすべてを相続させたいのであれば、子どもが相続放棄するのではなく、「配偶者にすべての財産を相続させる」と記載された遺産分割協議書に子ども全員で署名捺印すればよいでしょう。
▼誤解⑦ 遺産分割協議で1人に相続させたら、その人が負債も相続する・・・×
遺産分割協議書は、あくまでもその書類に署名捺印した相続人全員が承諾した内容であって、債権者も交えて行なわれた契約ではありません。
したがって、遺産分割協議書は相続人間では有効な内容であっても、債権者には通用しません。
債権者としては、各相続人に法定相続分に従って債務の請求をしてもよいですし、実際の相続分に応じて負債の請求をしてもよいことになります。
したがって、相続分は無くても、相続人全員に同様に請求をされる可能性があります。そうしたリスクを避けたいのであれば、相続放棄をする必要があります。
▼誤解⑧ 連帯保証は一身専属である・・・×
被相続人が他人の借金などの連帯保証人になっていた場合、これも相続されることになってしまいます。
連帯保証の契約書は手元に残っていないことが多く、気づかずに遺産を相続してしまい、あるとき急に多額の金を支払うよう求められることもあります。連帯保証は、発見しづらい「時限爆弾」と言えます。
親子の間柄であれば、親の存命中に連帯保証のあるなしを確認しておくことができますが、叔父の相続などは予測が難しいこともあります。
場合によっては相続放棄するなど、慎重に対処する必要があります。
▼誤解⑨ 子が相続放棄したら孫が代襲相続する・・・×
代襲相続が生じるのは次のケースに限られています。(民法887条2項)
①被相続人の子が、相続開始以前に死亡したとき
②被相続人の子が、相続人の欠格事由の規定に該当し、相続権を失ったとき
③被相続人の子が、廃除によって、その相続権を失ったとき
したがって、子が「相続放棄」をしたときに、孫が相続人となることはありません。
うっかり誤解するのは、何れも子の相続権が無くなるので混同しやすいことが原因と考えられます。
▼誤解⑩ 親が相続放棄したら祖父母は相続できない・・・×
被相続人の直系尊属が相続人となるとき、親等の異なる直系尊属の間では、その近い者が先に相続人になります(民法889条1項1号)。
したがって、親等の近い父母が相続放棄した場合には、次に親等の近い祖父母が相続人となります。
さらに、相続放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなされます(民法939条)ので、父母が相続放棄した場合、相続人となるべき父母が初めからいないことになりますので、祖父母が相続人になるわけです。
子が相続放棄しても孫は相続できませんが、その場合とよく混同されます。
▼誤解⑪ 相続放棄したら祭祀承継できない・・・×
「系譜、祭具及び墳墓の所有権は、前条の規定にかかわらず、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者がこれを承継する。但し、被相続人の指定に従って祖先の祭祀を主宰すべき者があるときは、その者が、これを承継する。」(民法第897条)
祭祀財産とは、具体的には系譜…家系図、祭具…位牌、仏像、仏壇等、墳墓…墓石、墓碑、墓地等を指します。
これらの祭祀財産を相続人の間で分割してしまうと、法要を行う場合に相続人が祭祀財産を持ち寄ったり、祖先の祭祀をするときに不都合を生じることになります。
したがって、相続財産とは別個に特定の1人に受け継がせることになっています。これを祭祀継承者といいます。
このように祭祀財産は通常の相続とは違う形で、慣習などによって継承されることから、相続破棄をした人でも祭祀財産を継承し、祭祀継承者になることは可能なのです。
▼誤解⑫ 相続放棄したら生命保険は受け取れない・・・△
相続放棄をした場合、死亡保険金の扱いでポイントとなるのが、その保険の受取人です。
受取人≠被相続人(受取人=特定の相続人、あるいは単に「相続人」)の場合であれば、その受取人として指定されている人の固有の財産とされるため、相続放棄をしても死亡保険金を受け取ることができます。
ところが、受取人=被相続人の場合、死亡保険金は被相続人の財産として扱われるため、相続放棄をすると死亡保険金は受け取れません。
▼誤解⑬ 相続放棄したら遺族年金は受け取れない・・・×
遺族年金は遺族がその固有の権利に基づいて受給するもので、相続財産には含まれません。したがって、相続放棄をした場合でも、遺族年金は受け取ることができます。また、未支給年金も相続財産には含まれないので、相続放棄をしても受け取ることはできます。
遺族年金には「遺族基礎年金」、「遺族厚生年金」等があります。
○遺族基礎年金は遺族年金の基礎となる部分で、国民年金に加入していることが前提となります。
遺族基礎年金は大まかに言うと、「子どもが成長するまでもらえる遺族年金」で、子どものいない、あるいは子どもがすでに成長している方は遺族基礎年金をもらうことはできません。
○遺族厚生年金は、厚生年金保険の被保険者が死亡した場合に受け取れる遺族年金です。厚生年金加入者に限られるため、国民年金のみの加入者がなくなった場合は対象となりません。
遺族厚生年金を受け取れる対象は「妻、55歳以上の夫、父母、祖父母、18歳未満の子、あるいは20歳未満で障害等級1級または2級を持っている子」です。
遺族厚生年金は支給される期限がありません。したがって、年金生活者が死亡した後で遺族厚生年金を配偶者が受け取ることもあります。この場合は次の3つのうち最も多い支給額を選びます。
①自分の老齢基礎年金+自分の老齢厚生年金(遺族厚生年金を受け取らないパターン)
②自分の老齢基礎年金+配偶者の厚生年金×4分の3
③自分の老齢基礎年金+お互いの厚生年金の平均をとったもの
(選択肢を見てわかる通り、遺族が国民年金のみを受け取っていた場合は、配偶者の厚生年金の4分の3をもらう選択肢だけになります)
▼誤解⑭ 限定承認が一番便利だ・・・△
相続には3つの方法があります。
1 被相続人の財産のすべてを相続する「単純承認」
2 被相続人の財産を一切相続しない「相続放棄」
3 被相続人のプラスの財産の範囲内でマイナスの財産も相続する「限定承認」
限定承認は、単純承認と比べ相続財産を超える債務は相続しなくて済みますから、相続財産がプラスなのかマイナスなのか不明なときにはこの方法を使えば問題ないような気がします。
ところがこの方法では、次のようなデメリットもあり、なかなか扱いにくい方法と言えます。
① 共同相続人全員の同意が必要
② 3ヵ月以内の手続きで期間が短い(全員の戸籍謄本や財産目録等が必要)
③ 家庭裁判所に申述後、相続財産の清算手続きが複雑
・公告…
限定承認者は受理審判後5日以内にインターネット等を利用して官報での「限定承認をしたこと及び債権の請求をすべき旨」の公告手続きをします。
・相続財産の管理と売却…
官報公告の手配が済むと、次は相続財産を処分して換価していく作業に移ります。原則として競売手続きによって換価処分していくことになります。
・債権者等への弁済…
官報での公告期間が満了したら、最後は清算手続きです。公告によって請求申出をしてきた相続債権者に換価処分した財産を弁済していくことになりますが、全債権者へ満額の支払いができない場合には、各債権者の債権額に応じて按分した額を支払っていくことになります。
限定承認は、一見すると便利な制度に見えますが、詳しく見ると所定の期限内に相続人全員で申述手続きをしなければいけないことや、その後の清算手続きの複雑さから、利用件数はあまり多くないのです。
▼誤解⑮ 遺産分割協議後に遺留分減殺請求すればよい・・・×
遺産分割協議は、遺言と異なり、相続人全員の話し合いと合意により遺産分割の方法が決定されます。もし分割方法に不満があれば、遺産分割協議の中で自らそれを主張し、実現する機会は与えられています。
結果的にそれが合意された(署名捺印した)ということであれば、遺留分の問題も含め解決したとみなされることになってしまいます。
したがって、再度全員で遺産分割協議をやり直すことに同意すれば別ですが、合意後に遺留分減殺請求が認められる可能性はきわめて少ないかと思われます。
▼誤解⑯ 遺留分放棄すると、相続財産は受け取れない・・・×
民法では「相続の開始前における遺留分の放棄は、家庭裁判所の許可を受けたときに限り、その効力を生ずる。」(1043条)とされています。
遺留分放棄は相続放棄とよく混同されます。
「遺留分の放棄」は、推定相続人が遺留分を事前に自らの意思で「放棄」することで、放棄するのは「遺留分」です。
これに対し「相続放棄」は、相続することを放棄しますから、始めから「相続人ではなかった事」になります。
したがって、遺留分も含めた相続権を失う事になります。
遺留分の放棄は、あくまで「遺留分だけを放棄」するわけですから、遺留分を放棄したとしても、その人はまだ「相続人」であり続けます。
したがって、遺留分の放棄をしたとしても、依然として法定相続人なのですから、遺産分割協議が行なわれれば、それに参加することになりますし、「遺留分減殺請求はできません」が、遺産分割を行なって相続すること自体は可能なのです。(当然、負債も相続することになります)
余談ですが、遺留分放棄には、遺言を同時に用意しておかないと、遺留分は無くても、法定相続分は依然として存在するわけですから、遺産分割協議で遺留分放棄者が合意しなければ、遺留分放棄単独ではなんの意味もなくなってしまいます。
▼誤解⑰ 養子縁組は1人しかできない・・・×
相続税法では不当に税負担を減少させることを防ぐため、一定の制限があります。
具体的には、相続税を計算する上での法定相続人の数に制限があり、実子がいる場合は民法上の養子が何人いても1人、実子がいない場合は、2人までとしかカウントされません。
ところが民法上は、養子縁組できる人数について制限はありません。
実子がいても、何人とでも養子縁組ができます。
但し、養子縁組の人数が増えれば増えるほど各相続人の「法定相続分」は減少することになります。
尚、民法上、被相続人と養子縁組により養子になった者であっても、次の養子は、相続税の課税上、実子とみなし、法定相続人に含めることができます。
①民法の特別養子縁組による養子となった者
②被相続人の配偶者の実子で被相続人の養子となった者
③被相続人との婚姻前に被相続人の配偶者の特別養子縁組による養子となった者でその被相続人の養子となった者
④被相続人の実子若しくは養子又は直系卑属が相続開始以前に死亡し、又は相続権を失ったため相続人となったその者の直系卑属
▼誤解⑱ 離婚すると別れた子に相続権はない・・・×
相続は婚姻よりも血縁関係が重視されます。
子どもがいる状態で離婚すると、夫婦はお互い他人になりますが、親子関係は継続しますので相続権はあります。
したがって何十年と会っていない、あるいは1度も会ったこともない子ども同士(代襲相続ならば孫同士)が相続の協議をしなくてはならないことになります。
離婚しても親子関係は残る以上、相続の問題は一生つきまとうことになります。
この場合、遺留分を考慮して遺言書を作成することによって、のちのちの対処することが考えられます。
▼誤解⑲ 相続は弁護士へ・・・△
弁護士へ行かない(法律問題にしない)ことが円満相続の最大のポイントです。
法律通りに分けるにも相続人全員の合意が必要です。
一にも二にも自助努力、当事者同士が最大限の努力をし、合意・解決を目指しましょう。
合意が得られなければ家庭裁判所の調停そして審判となり、判決は法定相続分が原則です。
ただし、兄弟姉妹の縁は切れてしまいます。
弁護士は最後の最後です。